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「……いかなきゃ」  全身が重くて仕方がない。それでもどうにか体を起こして車を動かす。受け持ったタレントの家が、大和の家からそれほど離れていなくてよかった。  ――考える時間が長くなるほど、思い出が瞼の裏に浮かんで何も手につかなくなってしまいそうだから。  無心でハンドルを握って、入り組んだ道を進んでいく。大きな通りに出た瞬間に視界の端に今頭に浮かんでいる人の顔が見えて、笑ってしまった。 「忘れられたりするのかな、しないよね」  こんなにも存在感のある人を忘れるなんてできないだろう。街を歩くだけで、テレビをつけるだけで、私が忘れようとしている人はこの街のどこにでも現れて、決して美しい記憶は色褪せず、いつまでも消えていかない。  フランスにいる間、私はとにかく何も考えず淡々と仕事をこなしていた。  ホテルに戻ってからも仕事を詰め込んで、できるだけ頭に浮かんでこないように必死になっていた。  そのうちに不動産会社から入居が可能となる旨の連絡が入り、海外にいながら契約を結ぶことができた。  担当者は「外国にいる間に契約を結びたいとおっしゃる方に初めて出会いました」と朗らかに笑っていた。  まさかその理由が、愛する人の前から跡形もなく消えるためだとは思わないだろう。
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