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デジタルサイネージの中で大和が美しく微笑んでいる。また大きな広告の仕事をしたらしい。私の知らないところで大和はたくさんの仕事をして、どこまでも遠くへ走っていく。
その姿が眩しくて、いつも遠いと思うのに、大和はわざわざ後ろを振り返って蹲る私へと手を伸ばそうとする。
それがどうしても苦しくて、別れを選んだ。
マンションの駐車場に車を入れて、契約しているスペースに大和の車がないことを目視し、安堵で肩の力が抜けた。
素早くバック駐車して車を降りる。
まるでスパイ映画に出る主人公みたいだ。そう思うのに、エレベーターのガラスに映る私はくたびれたグレーのスーツを身に纏う、平凡そうな顔の女だった。
これまでの人生で私が主役だったことはない。一度としてなかったと思う。それどころか人生は私からいつも大切なものを奪っていった。
軽快な音が鳴って部屋がある階につく。その音に顔を上げてエレベーターから降りた。部屋のドアの前に立って、カードキーをかざす。
どうか部屋に大和がいませんように、とも、どうか大和がいてくれますようにとも願った。矛盾した頭を整理するのはもう諦めた。
大和への想いは、そんなに簡単に割り切れない。
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