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どれほど忙しかろうと、体づくりをして、稽古をして、メンテナンスも欠かさない。毎日を丁寧に生きている人だ。
きっと、私がいなくとも本当は毎日まともに生活することができる。
「褒めてくれんの。優しいな」
「ええー? みんなが思ってるよ」
「別にみんなとかどうでもいいよ。ひかりが思ってくれれてんならそれで」
言葉が続かなくなりそうだ。まっすぐに心を打ち込まれて、泣いてしまいそうになる。泣いたらきっと気づかれるだろう。だから何も言わずに胸を叩いた。
「痛え」
「キザなセリフ。次のドラマのやつでしょ」
「んなわけねえだろ」
「セリフ合わせ、手伝おっか?」
「だいたい覚えたからいい」
「あ、そ?」
「それよりもキスさせて」
「は、」
あまりにも自然な流れで囁かれ、拒絶する隙がなかった。目を見張っている間に拘束が解けて、顎を掬われる。
「やま、」
その名を呼ぼうとした瞬間、大和は少しだけ唇の端を緩めたように見えた。唇に熱が触れる。
この行為に何の意味があるのだろう。そう思うのに、至近距離で見下ろされると、機能不全の心臓が音を立てて騒いでいた。
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