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『青信号を渡っている最中に、猛スピードで車が左折してきて――』  事情を説明する警察官は、いったいどのような顔をしていただろうか。何一つ覚えていない。  遺書はなかった。そして祖母の最後の言葉は、くしくも私の両親と同じ『行ってきます』だった。  祖母はいつも朗らかで、私がしたいということにあまり反対しない人だった。それなのに私は、わざわざ祖母が猛反対した芸能関係の仕事に就いて、祖母を呆れさせた。 『昌はかあさんそっくりだわ。ダメだって言ってもこうって決めたら変えないんだから』  そういいながら、祖母は私がこの仕事を続けることを最終的には反対せず、よく私の話を聞いてくれていた。 『本当に楽しいのねえ。別に、大学に行ってから働くのでいいのに』 『それはだめ。私今の仕事が好きだし、それに、早くちゃんと稼いで、おばあちゃんに恩返ししたいから』 『生きてるだけで立派なことじゃないの』  優しく笑いながら背中を撫でられたあの日の心を今もまだ覚えている。
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