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「――えさん、……お姉さん」
「……ほしくん?」
呼びかけられる声に気付いてゆっくりと瞼が開く。徐々に開けてくる視界の中心に星くんが存在していた。ぼんやりとうまく合わずにいたピントがしっかりと現実に合わせられた時、ようやく私は、意識を失う前の自分が何をしでかしたのか、朧げに理解する。
つい最近、といっても具体的に何日前に起こったできごとなのかうまく思い出すことができないが、星くんが事故死した。
その日から、私はずっと星くんの夢を見続けている。
目が覚めると、どちらが夢でどちらが現実なのか、よくわからない。それなのに体は無意識に動いて、行動しようとする。
まるで夢遊病のように動き出して、私は私を殺す努力をしているらしい。
らしい、というのは、正気に戻っているうちは、その行動をうまく思い出すことができないからだ。記憶はいつもどこにもなくて、気が付いたら今のように、ベッドの上で眠っている。
「うん。お姉さん、泣いてるよ」
彼は私の頬を撫でながら、悲痛な表情でつぶやいた。そのときの彼の苦しみの瞳が忘れられない。
彼は自分ではない者の痛みに心を寄せて、それがまるで己に起こる痛みのように苦しみと向き合っていた。
常に鋭い包丁で内臓を抉られているみたいに、もしくはいつも大切なものを目の前で壊され続けているみたいに。
私のせいで彼の顔色は真っ青で、美しい瞳が台無しになってしまっていた。
それがたまらなく悲しい。それなのに、頭の中に霞がかかっているかのように思考が不明瞭なせいで、思いを言葉にして告げることができない。
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