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星くんの美しい唇から発せられるのは、私の心に届くようにと、ゆっくり、丁寧に噛み砕かれた言葉だった。
いつもの彼があまり使わないような、少し砕けた言葉だ。それなのに、囁かれるだけで優しさに抱きしめられているようだった。
『精神が非常に不安定な状態で、家族のフォローが必要です』
ふいによく知らない男性の声が頭に響いてくる。
星くんが亡くなったあと、私は自殺をしようとして、星くんがまた現れた。彼はどうしてか私の人生をもらうと言って、私が混乱しているうちに私をこの部屋に連れてきて、病院にも連れ出した。
心の調子を崩したから、仕事は休みをもらっていて、私は今、取り乱すたびに目の前の彼を地獄に突き落としている。
「……私今、すごく迷惑、かけてる、よね」
「ぜんぜん」
嘘だ。嘘だとわかるのに、宥めるように背中を撫でられて、ますます涙があふれ出た。
私たちはこの会話を繰り返している。この日の私はふいにそのことに気付いて、泣きながらもう一度口を開いた。
「仕事……しなきゃ」
「お姉さん、」
「私、身寄りがない、から。働いて稼がなきゃいけないし、……星くんをもっと、世界の人に知ってほしくて、星くんに、こんなところで、苦しんでいてほしくなくて、」
「花宮さん」
「わたし、平気だから。もう大丈夫だから、だから」
「ひかり」
今まで一度も星くんに呼ばれたことのない名で呼ばれた瞬間、動き続けていた口が止まった。
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