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私を抱きしめていた腕がゆっくりと離され、正面から視線が絡み合う。彼の瞳に映る私は、みっともなく泣きべそをかいていた。
それなのに、彼はそれを気にすることなくただ優しく私の頬の涙を拭い、まっすぐに私を見つめて、躊躇いなく言った。
「俺と結婚してほしい」
「……う、ん?」
それは、精神を患ってベッドの上でめそめそ泣き続けている私には、もっとも遠い星の言語のように聞こえた。
意味が分からず、勝手に涙が止まる。
呆気にとられる私を見て、彼はその日、初めて小さく笑ったように見えた。
「結婚して。……そしたらもう、ひかりは俺の身内で、無理して働かなくていい」
「そ……、んな、理由で」
「俺は好きな女とずっと一緒にいられるようになるから、それでいい」
「す、きな、女……?」
言っている意味がわからなさすぎて、何が現実で、何が夢なのか、判別がつかない。彼は私の髪の毛先を愛でるように撫でて、私の返事を待っていた。
「そう。好きな女」
あっけらかんと告げられる言葉に、過去の星くんの言葉が思い出される。彼は私と付き合うことを条件に仕事を引き受けると言ってしまうような少し不思議な人だった。
あまりにも軽い調子で言うものだから、一度も好意と受け取ったことがなかった。だが、今私の目の前でプロポーズらしき言葉をかけてきているのも星くんだ。
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