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「……星くん、私のこと、すき、だったの」 「そう。好きだよ。だから結婚したい」  即答で、まったく迷いがない。まっすぐな瞳には嘘もなくて、私はわけもわからないまま、支離滅裂な問いかけをしていた。 「それで星くんの心は、報われるの、かな」 「もちろん。そうだよ」  星くんは私に前途ある未来を奪われた。それならば一つくらい、私が彼の希望を叶えられたらいい。本気でそう思っていた。  彼もまた、『行ってきます』と笑いながら言って、私の元へはついぞ帰ってこなかった。そのはずが、彼は今、私の目の前にいる。 「星くん、おかえり……?」 「はは、うん? ただいま」  そうか、帰ってきてくれたのか。  メリーゴーランドのようにぐるぐる回る頭の中で、誰かが囁いていた。  星くんは帰ってきてくれた。私と付き合えるのなら、と引き受けた仕事から無事に帰ってきてくれた。  ずっと同じことを言い続けていた星くんの願いに頷いたら、彼は、彼の心は、少しでも報われて、彼の人生に花を手向けることができるだろうか。  ――もしもそうなら、私の人生などいくらでも捧げられる。  よくよく考えれば、すぐにわかることだっただろうに。その時の私はただそれだけの考えで、彼の求婚に頷いてしまった。  一度死が巡れば、その者は二度と生者に語りかけない。当然の摂理をどうして忘れられたのだろう。いや、ただ逃避したかっただけだ。  彼は愚かな私のうなずきを見て、安堵のような表情を浮かべてもう一度私を抱きしめ直した。  そうして私と彼は、三年前の夏、書類にサインをして正式に婚姻関係を結んだ。
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