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もっとずっと輝かしいところにいるべきなのに、彼は優しくて、人を見捨てられないから、おかしくなった私の近くにいてくれる。
それが嬉しくて、悲しくて、苦しくて、うまく言葉にできずに泣いてばかりだった。彼は私が「仕事は?」と聞くと、決まって少し困った顔をして、私の髪を撫でた。それを見た私が「私のせいでごめんね」と謝ると、いつも私を強く抱きしめた。
『俺がいたくてここにいるんだよ』
『ごめんね』
『ごめんじゃなくて、ありがとうでいいよ』
美しい記憶が瞼の裏で輝く。そのとき私は、ありがとうが言えない代わりに約束を囁いた。
『げんきに、なったら。私が元気になったら、星くんは好きなところに行っていいんだよ』
『好きなとこ?』
『うん。お仕事、好きでしょう? たくさん、好きなことをして。星くんが楽しそうにお仕事をしてるのを見るのが、本当にすきだから』
彼はきっとその言葉を覚えていた。だから今、私の真意を覗くように私の瞳をじっと見て、私の答えを待っていた。
彼は私が元気になったと思ってくれている。それが嬉しい。応えたいと思う。震える息を吸って口を開いた。
「わたしも、わたしももう、お仕事私もしなくちゃ」
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