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◇ ◇ ◇
「晶さん、今少し話、いいですか?」
水野愛子は私がマネジメントしているタレントの中でも、とくに担当歴が長い俳優だ。ティーン向け雑誌で読者モデルをしていたときにこの事務所と契約し、現在は俳優業を主戦場としている。
モデル業界出身という経歴にふさわしい華やかな顔立ちの女性で、私が休職する前までは特に恋愛ものの映画への出演が多かった。
「なに、薄給のマネージャーにおごってほしいものでもあるの?」
「ちがうってば」
ハンドルを握りながらちらりとバックミラーに視線を送ると、彼女の表情はわかりやすく緩み、後ろから軽く肩を小突かれた。
「ちょっと相談したいことあって」
「いま?」
「いまじゃなくてもいいけど……」
水野愛子は過去、今後の路線について相談をしてくれたことがあった。しかし私はその手配を進めている最中に休職に至り、約二年の休職後ようやく再会することができた。
中途半端な仕事をして迷惑をかけた申し訳なさから合わせる顔もないと思っていたが、再会したその日、彼女は輝かしい笑みで私を迎え入れてくれたことを覚えている。
『晶さんのおかげで、ちゃんとやりたい仕事、ちょっとずつやらせてもらえてるよ。戻ってきてくれてありがとう。私が星の分まで働くから。見ててね』
その言葉に、思わず目頭が熱くなった。
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