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「なにそれ。なんでそんな暗い顔してるの。素敵なことじゃん。愛子ちゃん、よかったねえ」  私と星大和の婚姻を、『よかったね』と言った人は、一人もいなかった。  水野愛子は私の言葉を聞いて、一瞬ぽかん、と呆けた顔をした。 「愛子ちゃん? なにびっくりしてるの」 「え……え?」 「え? って、え? なに?」 「だって、私……、好きな人と両想いなんだよ」 「うん、すごいじゃん。やったね。まあ、愛子ちゃんは私の自慢の娘だし」 「娘って……、晶さん、二十八でしょ? 私と三つしか変わんないよ」  私が二十五歳のとき、私は彼女のように健全な生活をしていなかったし、何よりもその年、私は大和の戸籍に入っている。 「はは、そっか。愛子ちゃん、もう二十五歳になったんだね。それは人を好きになるくらい当然だわ」 「でも私……、そういうの、だめな路線じゃん」 「なに、反対されたいの?」  水野愛子はモデル出身の美しい顔立ちとプロポーションを生かし、アイドルのような売り出し方をされていた。しかし彼女自身は芝居に興味を持っており、ターゲット層を大きく転換する必要があった。現在はようやく彼女が願っていた芝居の仕事が多くなってきたところで、ここでよい評価をとることができなければ、たちまち立場を失ってしまう。
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