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 知らなければ、今まで通り、彼が星悠翔であると思っているふりができる。そうすればもう少し長く彼の側にいられるだろう。私が元気にならなければ、あるいは私が苦しみ続けていれば、彼はずっと私の側に――。 「……なに、かんがえてるの」 『頑張りすぎたから、少しくらい休んでもいいって。ひかりは大丈夫。生きてていいよ。ってか俺のそばにいて欲しいから、生きててよ』 『できなくていいんだよ。無理してやろうとしなくていい』  耳元に、彼の言葉が住み着いている。苦しい時、暗闇の中でもがいているとき、いつも彼は私を抱きしめて、優しく囁いてくれた。私が苦しむと、彼は私以上につらそうな顔をしていた。それなのに彼は、私の側を離れず、ずっと私を抱きしめてくれていた。  そんな優しい人の前で、どうして私はずっと、苦しいふりをしようなんて思えるのだろう。  粉々に壊れたはずの心がゆっくりと機能を取り戻して、考えることができるようになった。それなのに私は彼が作り直してくれた心で、彼の厚意を悪用しようとしている。  心音がうるさい。部屋の中は冷房によって適度に冷やされているのに、額を汗が伝った。ぐるぐると目が回って、息苦しい。
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