826人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
どうしてこれほどまでに簡単な仕掛けに気づくことができなかったのだろうか。
考えれば考えるほど頭が痛い。割れそうな頭を抱えて耳鳴りをやり過ごしている。
どうにかして現実を消してしまいたいのに、うるさく騒ぎ続けるテレビを消すことも、携帯の画面から目を反らすこともできない。
彼は何の面識もない私が命を投げ出そうとしているのを見て、あえて星悠翔のふりをして私を抱きしめ、彼の人生に傷をつけてでも私の心を守ってくれた。
「どうして……」
震えながら携帯の画面を覗き込んでSNSツールを開き、同じように彼の名前を検索する。
マネージャーをしていたころの癖のようなものだ。久々に指先を動かしたというのに、やり方は身体が勝手に覚えていた。
現実など知らなければいい。いつだってそれは私に不都合なものばかりだった。それなのに、どうしても見ることをやめられない。
「……っ、う」
目が回るような文章の量に胃の中のものがせり上がってきそうだ。慌てて口を押さえながらスクロールしていく。彼を表現する言葉はそれぞれで、たくさんの称賛の言葉の中で、ぴたりと手が止まる。
『星大和、悠翔君が亡くなってから、あきらか悠翔君の路線の仕事取りに行ってるよね。それでブレークされても……気分悪い』
『所詮はお下がりだよ。恋愛ものとか、全部悠翔くんの真似。面白くない。不快。弟の七光りで仕事して何が面白いんだろ』
『悠翔君が亡くなった年に結婚発表とか正気じゃないよね』
『てか、悠翔君のマネさんと結婚したって話マジなの? 寝取りじゃん』
『悠翔君のジェネリックでしかない』
最初のコメントを投稿しよう!