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肝心な時に、いつも言葉が出ない。適切な言葉を伝えたいと思うのに、相手を思えば思うほど自分の口から出る言葉が相手を傷つけてしまわないか不安になって、結局形にすることができない。
あの日、明確に大和の心を傷つける言葉を言ったとき、大和が一瞬浮かべた表情を忘れることができない。
苦しみのような、諦めのような、一言では表現しきれない痛みを抱えた表情を浮かべて、まるで何事もなかったかのようにすぐに痛みを隠してしまった。
いわゆる芸能人と呼ばれる人たちは、人前に立って自身の魅力で勝負する仕事である以上、一定数の罵詈雑言を当然のものとして受け止めている。痛みに鈍感になろうとして、心の傷を隠すことが上手になる。
そうして泥だらけの道を美しく歩いていくのだ。
それが、どうしようもなく悲しい。
今日見た水野愛子の苦しげな笑みと大和の痛みを堪える目を思い返しながら、重い荷物をチェストの上に置いた。
酷く体が重たい。
胸に詰まった痛みを逃がすように深く息を吐いて、ソファにもたれかかる。
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