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 一日中駆け回って、事務所で事務処理を行ってから帰路についた。時刻はすでに深夜一時で、もはや指先を動かすことさえも億劫だ。  恐るべき静寂の中、ただ一人、自分だけが呼吸を続けている。  休職に至る前のような調子を取り戻していても、この部屋のテレビは大抵の間、ただの置物だ。それはこの部屋の主人がいつも忙しなく外出していて、この部屋に滞在する時間が少ないためだ。  今日もリモコンに手を伸ばすのが面倒になって、携帯を取り出す。  慣れた手で銀行のアプリを開き、普通預金口座に振り込まれている金額を見つめる。 「いち、じゅう、ひゃく、せん……」  その数字を確認して、ため息が漏れた。  復職してから貯め続けている口座には目標金額としていた額が記されている。今日の入金で、ついに到達したらしい。  復職を決めたのは、一刻も早くまとまったお金がほしかったからだ。しかしながら私はこの業界以外で働いたこともない高卒で、別の業界での再就職は考えられず、結局芸能プロダクションに戻ることに決めた。  星悠翔の一件で、この業界にはもう二度と戻らないと思っていたはずが、結局私は同じような悩みを抱えたまま、この仕事に向き合い続けている。 「愛子ちゃん、……、あー、もう」
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