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今日、水野愛子から恋愛に関する報告を受けた後、ただの一度も携帯に触れる機会がなく、思いを伝えられずに勤務を終えてしまった。
この時間だ。今連絡をされても迷惑に決まっている。
明日は昼から彼女の送迎と現場への顔だしがあるから、その場でしっかりと思いを伝えなければならない。
お金を稼ぐだけのために再開したはずが、結局私は所属タレントを受け持って、通常通りマネージャーの業務をこなしている。
『天職なんだと思うよ。俺はいまだに、花宮にタレントやってほしかったんだけどね』
『無理ですよ私、心弱いですし』
『イケメンに絆されて籍入れられるし?』
昼間、相原に相談を持ち掛けたあとに笑いながら言われた冗談だ。
この事務所で私の事情を把握しているのは、相原と上層部のごく数名だけだ。だからこそ私は星大和の妻としてではなく、花宮晶として受け入れられている。
明日、水野愛子と対峙したとき、どのような言葉をかけるべきか。
音のしないリビングでぼんやりと考えながら、銀行口座確認用のアプリを閉じてSNSを開いた。
無意識のうちに指が動いて、同じ名前を検索している。その名前が記されたいくつもの文字を流し見て、心に穴をあける。
痛みによって、正しく心の位置が掴める。息苦しく、途方もない作業だ。それでもこれをしていないと、私は忘れてしまいそうになるのだ。
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