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「ひかり?」  深く考え込んでいるうちに遠くから声をかけられ、肩が震えた。落としそうになった携帯をすぐにスキニーパンツのポケットに押し込んで立ち上がる。 「おかえり、大和」 「ん、ただいま。今帰ってきたんだ?」  玄関からリビングに入ってきた大和は、チェストの上に荷物を置きながら首を傾げていた。いつも通りの麗しい笑みを浮かべて大和が私を見つめている。  その様子をしっかりと見つめて、安堵の息を飲み込んだ。 「あ、うん。そう。少しぼうっとしてた」  ぼうっとしていたのではなく、インターネットの罵詈雑言を胸に刻んでいた。一つひとつの言葉で胸を突き刺し、自分の罪の重さを忘れないようにしている、なんて、大和には言わない。  嘘を吐きながら笑う私に、大和は「ふうん」と相槌を打つ。 「飯は?」 「今から食べようかなって思ってたとこ」  大和が帰ってくるだろうことを知っていて、このリビングで待っていた。自分の行動が心底馬鹿馬鹿しいと思う。『行ってきます』と言って出ていく彼が、確かに今日も帰ってきてくれることを確認しなければ、私はうまく呼吸ができなくなる。  そんな情けない事情は、死ぬまで大和には知られずにいればいい。  彼は私の言葉を聞いて、いいことを思いついたと言わんばかりに眉を上げ、わざとらしく手を叩いた。
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