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私の目と視線が絡むと、彼は優しい微笑みを浮かべて私のうなじを撫でた。
こっちにきてほしいと言ったのに、彼は結局私の腰に腕を回して距離をなくしてしまった。抗議する間もなく唇が重なる。
「元気んなった?」
「……大和のキスで?」
「はは、そう」
「もともと元気、だけど」
「ふうん? 罰ゲームの分もしてやろうか?」
意地悪そうに笑って私の背中を撫でる。彼は私が悩みを抱えていることに、いつ気づいたのだろう。
相手の心をよく理解しようと努める彼の前で、私はいつまで嘘を吐き通せるのだろうか。
「ちなみに何の罰?」
「デートすっぽかし分と、悩んでるくせに強がってる分」
「二回キスするの?」
「うん、濃いやつね」
それって誰にとっての罰ゲームなのだろうか。問うことができずに曖昧に笑ったら、彼は結局私の手を引いて立ち上がり、部屋を飛び出した。
「じゃあ、ドライブ中に言い訳考えろよ。それによっては我慢してやってもいい」
「我慢してやるってなに。私とキスしたいみたいでおかしいよ」
決して誰にも聞こえないように小さな声で話しながら彼の愛車へと向かう。私の手は、少し前と同じように恋人のように彼の手に繋がれていて、彼はとても気分がよさそうに笑っていた。
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