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 ドアガラスに視線を向ければ美しい横顔が映って見える。緩慢に閉じては開かれる瞼が美しい睫毛を震わせて、夜の光を複雑に反射させていた。  車は好きだ。大和の顔をまじまじと見つめても、見つめ返されることが少ないから。  大和は少しも振り返ろうとしない私へと一瞬視線を向けて、小さく笑った。 「四時までには帰るって」 「え? あ、うん」 「十二時まで眠れるだろ」  私が拗ねているようにでも見えたのだろうか。思わず顔を向けてしまった。彼は外の景色に注意を配りつつ、ちらりと私に視線を向けてくる。  私の返事を待っているようだった。 「そうだけど、大和、仕事の準備とか大丈夫なの」 「心配?」  まるで、私に心配をされるのが心底嬉しそうな顔をする。その顔を見るたびに胸が動いて、私はそれを知らぬふりを続けている。 「そりゃまあ、そうでしょ。売れっ子さんなんだから。こんなことしてる暇、ないだろうし。少しでも休んだ方がいいのに」 「だから今、十分休息とってるだろ」 「これって休息?」 「俺の可愛い奥さんが癒してくれればね」  ささやかに笑いながらアイスアメリカーノを口に含んで、ちらりと私の目を見る。彼の目は、私の反応を楽しんでいるかのようだった。
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