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止まってほしくない時に限って信号は赤く点滅して、ドアガラスの先には大きな広告が立てられていた。デジタルサイネージでできた広告は、いつまでも劣化することなく美しい輝きを放ち続ける。
大きな画面の中心で、星大和が笑っていた。
目を逸らしてみても、結局隣の大和と視線がかち合うだけだ。強い引力に引かれるように目が離せなくて、結局唇が勝手につぶやいた。
「肝心な時に、言葉にならなくて……傷つけちゃった」
彼にしか聞こえないような蚊の鳴くような声で呟いたのに、彼は先を促すように小さく頷いて私の頭を撫でた。
信号が青になる。同時に大和は私から目を離して、ゆっくりとアクセルペダルを踏み込んだ。
夜の海岸が見える。真っ暗で吸い込まれてしまいそうだ。
夜の海なんて言えばロマンチックに聞こえそうだが、私と彼の目の前に広がっているのは果てのない闇のような海だった。星は見えない。都会の夜はいつもそうだ。
「相手、男?」
「うん?」
ぼんやりと景色を見つめているうちに問われて、ガラス越しに彼を見つめた。彼も同じようにガラス越しに私を見つめている。
「あ、ああ。女の子、だけど」
「ふぅん」
「ふぅん?」
「いや、男なら別に構わなくていいってアドバイスしようと思ってたんだけど」
「なにそれ」
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