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「相談してくれた内容を、私は大切にしたくて、お祝いしたくて、でもそれが上手く伝わらなくて」 「うん」 「いや、伝わったのかも……しれない、けど、その子は傷つけられてて、傷つけられたくないから、自分の心をなくしてしまおうとしていて、……そのとき、うまく伝えられなかったの」 「そっか」 「……うん」  音のない車内に二人で座っている。まるで世界に二人だけになってしまったみたいで、私は愚かにも心を打ち明けてしまった。  私の悩みを背負う必要なんてないのに、大和は真剣にこのことに向き合って私を慰めようとしている。  彼の手は決して私を離さず、アイスアメリカーノが入った容器は大粒の涙のような水滴をこぼしていた。 「ひかり」 「うん?」 「ひかりはそのとき、本当はなんて言いたかったの」  まっすぐに私を見つめて、私の答えを待っている。決して急かすような目ではないのに、全部を知って欲しくなってしまう理由を、私は必死に隠している。  本当は、ずっと前から伝えたい思いがある。 「……ちゃんと見てるって伝えたくて」  まっすぐに前だけを見つめて泥だらけの道を突き進んでいく大和に、伝えたい思いがある。 「他の誰もが興味を失くしても、私はずっと見ているよって。ずっと応援してるよって、それが言いたくて」
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