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返事を待たずに外へと飛び出してドアを閉める。五月の夜の海は、少し肌寒くて、両腕を摩りながらアスファルトを踏みしめる。
眼前にあるのは海というよりも輝かしい街の喧騒が見える夜景で、その眩しさに目を瞑った。
「風邪引くだろ」
「わっ、」
耳元に囁かれて、思わず声が出てしまった。肩に服がかけられて、彼の顔を見上げる。帽子をかぶっていても彼の美しさを隠すことはできない。そもそも大和は背が高くて手足も長いから、見るからに業界人らしい。ちらちらと周囲を伺って、誰もいないことを確認しながら口を開く。
「大和が着なよ」
「断る」
「大和の服じゃん」
「じゃあ俺の勝手にしていいだろ? ひかりが着てよ。似合うし」
どこが似合うのだろうか。大和が私に着せたパーカーは当然普段は彼が着ているもので、私には全くサイズが合わない。しかしこれ以上言い争っても彼が折れることはないし、こうして近くで会話しているところを見られる方が不都合だ。
「着るから、ちょっと離れて」
「はいはい」
腕を通して、予想通りの大きすぎるサイズに辟易しつつ、腕をまくる。私の一連の動作を見守った大和はおかしそうに笑った。
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