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「おはようございます。少し早く着いちゃいましたね。大丈夫でしたか?」 「全然大丈夫っす。花宮さんこそ朝早くからありがとうございます」 「いえいえ、じゃあ岡田君、忘れ物ないですか?」 「ばっちり。修学旅行ばりにわくわくして眠れなかったっす」  彼――岡田(おかだ)(れん)は子犬のように明るく振る舞っているが、これでも身長百九十センチメートルを超える長身で、そのギャップを売りにしている若手だ。  つい最近特撮ものを撮り終えたばかりで、着実に人気を集めているやる気に満ち溢れたアクターでもある。  どのような仕事にも前のめりで、柔和な印象とは裏腹にこの業界で生き残りたいという強い気概のある気鋭だ、と彼のマネージャーを務める同僚から言付けられている。  私の同僚である相原は岡田漣をスカウトからずっと育ててきた敏腕マネージャーで、今回の地方巡回イベントももちろんかなり気合を入れていた。しかし持病のヘルニアが悪化し、とても長距離の移動には耐えられないため、代打で私が選ばれたというわけだ。  マネージャーという職業は昼も夜もないタレントのマネジメントを行う職種で、当然土曜も日曜もないハードな仕事だ。主に立ちっぱなしで現場を見守ることが多いため、ヘルニアを患う同僚は少なくない。 「そんなに楽しみなイベントだったのに、相原マネと一緒に行けなくて残念でしたね」
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