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大和は努力を怠らない。どんな時にも最善を尽くそうとする。それなのに、彼はいつも私のせいでその道を歪めようとしてしまう。
仕事に誠実な彼が、スケジュールを覚え間違えるはずがない。彼には有能なマネージャーもついている。基本的に、マネージャーは常にタレントの翌日以降のスケジュールを本人に伝えているだろうし、仮にスケジュールが変更になったとしても、それはすぐに本人に伝えられるはずだ。
知らなかったはずがない。スケジュールを知っていて、あえて伝えることなく私を連れ出したのだろう。
途方もない優しさを差し出してくれる。そのくせに、彼はその見返りを求めたり、自身がどんな犠牲を払ったのかを話したりするつもりなんて少しもない。
瞼を開いてゆっくりと彼の手を引きはがし、ベッドから抜け出す。あどけない寝顔を惜しげもなく晒す彼の髪を撫でて、音を立てずにリビングへと向かった。
リビングに置かれているデジタル時計はすでに午前四時に差し掛かるところで、カーテンを捲って外の様子を窺うと、まだ夜の世界が広がっているようだった。あと一時間もしないうちに太陽が顔を出すはずだ。
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