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「仕方ない。もう過ぎたことだ」
耀斗は苦笑した。
「会いに行かなかったのはあなたが俺を嫌っていると思ったからだ」
珠夏は目を丸くして彼を見た。
「結婚式の夜、お見舞いに行った俺を、暴れるほどに嫌がっておいでだった。だからあなたに会いに行くのを控えた」
「あれは……」
珠夏は目をさまよわせ、言葉を切った。
自分を抱きしめるようにして、ぽつりと言う。
「嫌いじゃなくて、怖かったんです」
耀斗が珠夏を見る。
「俺、そんなに怖いかな?」
珠夏は迷ったが、結局はうなずいた。
「食べちゃいたいって言われて、怖かったんです」
「え?」
耀斗が驚く。
「猫に食べられそうになったことを思い出して……」
「そんなことがトリガーになったのか」
耀斗は呆然とつぶやいた。
「俺が言ったのは、あなたが魅力的だという意味だ」
言われて、ようやく珠夏は思い出す。男性が女性を口説くときにも、赤ちゃんをかわいがる表現としても、食べちゃいたいくらいかわいい、という言葉は使われている。
「昔は白虎の人が朱雀の人を食べちゃったって教えられてたから……」
言い訳するように言うと、耀斗はくすっと笑った。
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