猫嫌いの朱雀の娘は白虎の次期当主に執愛される

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 珠夏が婚約した当時、跡取りである姉の紅羽はすでに婿をとっていた。 青龍の一族の青年だったが、変化もできないし異能もない。優しい男性で、紅羽とは恋愛結婚だった。  だからこそ紅羽は余計に珠夏の心配をしてくれたのだ。  大丈夫、と珠夏は答えた。  怖い思いをさせない。  一面の芝桜が咲き乱れる中、彼は微笑してそう言ってくれた。  だから彼を信じようと思っていた。気持ちが一変することになるなんて、このときはまったく想像もしていなかった。  式の直前、彼は珠夏に会いに来た。  紋付袴を着た彼は一段と素敵で、珠夏はただ彼に見惚れた。  彼は珠夏を見て微笑して言った。 「かわいいね……食べちゃいたい」  刹那、背筋を悪寒が走った。  猫に襲われた恐怖が蘇る。  スズメになっている珠夏に、牙を剥いてとびかかってくる猫。  慌てて飛ぼうとしながら避けると、翼に爪がかすった。  焦ったせいでうまく飛び立てずにいると、猫はまたとびかかって来た。  必死に翼を動かして舞い上がった。  心臓がばくばくして、破裂するかと思った。  気が付くと人の姿に戻って自宅である屋敷の中にいた。  それ以来、まったく変身できなくなってしまった。  人間の姿なら猫に食べられることはない。  そう思って自分をなだめ、なんとか外出できるようになった。  だが、根底にある恐怖感は拭えないまま、見るだけで動けなくなるほどだった。
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