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犬に襲われている白っぽい猫を見たときも、犬より猫のほうが怖くてしょうがなかった。
耀斗が人の姿をしていたから油断した。
『白虎は朱雀を捕まえては食べるんですよ!』
おばばの脅す声が蘇る。
彼は自分を食べるために嫁に呼んだのかもしれない。
式の間中、珠夏は震えていた。
珠夏はその晩、熱を出した。
耀斗が見舞いに来たとき、珠夏は錯乱したように暴れてそれを拒否した。
結婚式の翌日、その話は屋敷中に広まっていた。
女中は珠夏を見るたびにひそひそ話をした。
昼食に食堂に行くと、そこでも小声で、だけど聞こえるように女中たちが話をする。
食事の途中で席を立つのは作法に反するし、聞えよがしの内緒話から逃れることはできなかった。
「朱雀の娘なんて嫁にするべきじゃなかったのよ」
その言葉に、珠夏は胸を痛めてうつむいた。敵意に満ちた視線が突き刺さるかのようだった。
「火剋金、火は金を溶かす、だから白虎より強いとか言い張ってるけど」
「結局は鳥ふぜい。どちらが強いかは明らかよねえ」
「しかも出来損ないの妹が嫁に来るなんてね」
「耀斗様、おかわいそう」
「てっきり黎羅様と結婚されると思ったのに」
別の女中がつぶやく。
麒堂黎羅は麒麟の一族の中でも本家の娘で、二十二歳。変化もできる上、麒麟の血をひくために、空を駆けるその足は誰よりも早い。
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