猫嫌いの朱雀の娘は白虎の次期当主に執愛される

12/59
前へ
/59ページ
次へ
 犬に襲われている白っぽい猫を見たときも、犬より猫のほうが怖くてしょうがなかった。  耀斗が人の姿をしていたから油断した。 『白虎は朱雀を捕まえては食べるんですよ!』  おばばの脅す声が蘇る。  彼は自分を食べるために嫁に呼んだのかもしれない。  式の間中、珠夏は震えていた。  珠夏はその晩、熱を出した。  耀斗が見舞いに来たとき、珠夏は錯乱したように暴れてそれを拒否した。  結婚式の翌日、その話は屋敷中に広まっていた。  女中は珠夏を見るたびにひそひそ話をした。  昼食に食堂に行くと、そこでも小声で、だけど聞こえるように女中たちが話をする。  食事の途中で席を立つのは作法に反するし、聞えよがしの内緒話から逃れることはできなかった。 「朱雀の娘なんて嫁にするべきじゃなかったのよ」  その言葉に、珠夏は胸を痛めてうつむいた。敵意に満ちた視線が突き刺さるかのようだった。 「火剋金(かこくきん)、火は金を溶かす、だから白虎より強いとか言い張ってるけど」 「結局は鳥ふぜい。どちらが強いかは明らかよねえ」 「しかも出来損ないの妹が嫁に来るなんてね」 「耀斗様、おかわいそう」 「てっきり黎羅(れいら)様と結婚されると思ったのに」  別の女中がつぶやく。  麒堂(きどう)黎羅は麒麟の一族の中でも本家の娘で、二十二歳。変化もできる上、麒麟の血をひくために、空を駆けるその足は誰よりも早い。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加