25人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたがこの結婚を嫌がっていると聞きまして。式の夜は大変だったとか。それほどお嫌でいらっしゃるのに家のために身を捧げるなど、そんな痛ましいことはございません」
彼女は悲し気に目を伏せた。
珠夏の胸にまた痛みが走った。
麒麟は慈悲の生き物だという。
彼女はその血を引いていて、だからこんなに優しいのだろうか。耀斗もそこに惹かれたのだろうか。
「逃げるのなら、お手伝いいたします。さあ、お早く」
「でも……」
「今を逃すと、次はいつ助けに来られるかわかりません」
珠夏が見つめると、黎羅は黙ってうなずいた。
「……お願いします」
珠夏が言うと、黎羅は優しく微笑した。
珠夏は黎羅に渡された女中服に着替えた。
洋服は久しぶりだった。足元がスース―して心もとなくて、珠夏はなんどもスカートを引っ張った。
黎羅が扉を開け、珠夏がそれに続いた。
黎羅に隠されるようにして移動して外に出た。
タクシーが待機していて、黎羅は珠夏をそれに乗せた。
「まずはご実家にお逃げなさいませ。ご家族に事情を話せば匿っていただけるでしょう」
珠夏はうなずく。もとより、それ以外に逃げ場などない。
「どうぞ、ご自由になってくださいませ」
黎羅は別れ際、そう言った。
タクシーの扉がばたんと閉じられ、車は発進した。
最初のコメントを投稿しよう!