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もう一度深呼吸をしてから、珠夏は言った。
「離婚、してほしいんです」
彼は驚いて立ち上がった。
麻の葉の模様が入った飾り障子から、やわらかな日が差し込んでいた。白金の髪にまとわるように光が揺れる。
「どういう冗談かな」
彼は気を取り直したようにそう言った。
「冗談ではないです」
珠夏は言い返した。
「誰かになにか言われたのか?」
彼の声が優しくて、珠夏の胸はしめつけられた。
「違います。私の判断です」
「……私たちの結婚が、ただの結婚がじゃないことはわかっているね?」
彼は珠夏に歩み寄った。
珠夏は言葉に詰まった。
彼も珠夏も五神と言われる神の加護を受ける一族だ。
五神は玄武、青龍、白虎、朱雀、麒麟を指して言う。玄武は水、青龍は木、白虎は金、朱雀は火、麒麟は土の性質を持つ。
五神の加護を受けた各一族は繁栄し、古代より日本を支えて来た。
かつては各一族の者はみな変化ができたし、異能を持っていたという。
時代とともに血は薄まり、それらの能力を持つ者は減った。外見は普通の日本人に近付いた。
各種族はかつては友好的であったというのに、江戸時代から、なにゆえにか白虎と朱雀だけは反目しあっていた。
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