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ダイヤのような瞳がやわらかく弧を描いて珠夏を見つめ返した。
「俺たちは子供のころに会ったことがある。あなたは覚えていないようだけど」
珠夏は首をひねった。
こんなに美しい人に子供のころに会った覚えなんてない。
「あのとき俺は変化していた。あなたは犬に襲われていた俺を助けてくれたんだ」
あ、と思い至った。
白っぽい猫が犬に吠えられている場面に出くわして、恐ろしかった。犬も怖かったが、それ以上に猫が怖かった。猫にしては妙に四肢が太かった。今から思うに、あれは猫ではなく子虎だったのだ。
「猫が怖いのに助けてくれた。その優しさに、あなたのことが好きになった」
「たった一度のことで」
「それで充分だ」
彼に見つめられ、珠夏は顔を伏せた。顔がどんどん熱くなっていく。
「だけど、結婚まで一度も連絡をくれなくて……式を挙げたあとも会うことがなくて……」
「俺はなんどもメールをしていた」
「私はそもそもメアドをお教えしてません」
珠夏は困惑し、それからハッとした。紅羽がメールに言及していたことがあった。
「もしかして、姉が」
それだけで、彼も気付いた。
「連絡先を聞きそびれたから、ご両親を介して連絡先を……メアドを教えてもらった。お姉さんがなりすましていたのか」
そんなことない、とは言えなかった。過保護な姉ならやりかねない。
「その様子では贈り物もあなたの手元には届いてないな」
「ごめんなさい。全然知りませんでした」
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