猫嫌いの朱雀の娘は白虎の次期当主に執愛される

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 朱雀のような赤い鳥が描かれた和風の茶椀(ティーカップ)だった。九谷焼かな、とその鮮やかな色彩を眺める。中には珠夏の好きな抹茶ミルクが注がれていた。小皿に載った白い淡雪羹(あわゆきかん)とともに卓子(テーブル)に並べられた。  ちらりと扉を見ると、スーツ姿の戸良内亮太(とらうちりょうた)が塞ぐように立っていた。四十過ぎとは思えない鍛えられた体をしている。 彼は耀斗の付き人で、耀斗に心酔している。朱雀を毛嫌いしていて普段から冷たい。珠夏がどれだけ頼んでも外に出してくれることはないだろう。  女中が出て行くと、また扉には鍵が掛けられた。  珠夏は抹茶ミルクを口にする。まろやかな口あたりに、またため息をもらした。 ***  耀斗とお見合いをしたのは珠夏がまだ十七歳、高校生のときだった。そのとき耀斗は二十歳で大学生だった。  珠夏は最初、縁談を嫌がった。  猫にトラウマがあったし、子供のころに世話をしてくれたおばばの話が怖かったせいもある。  白虎の一族はかつて朱雀の者を捕まえては食べていた、と子供のころに聞かされた。  珠夏がなにかいたずらをしたり、習い事をさぼったりすると、 「白虎が食べに来ますよ!」  と脅すように叱られた。  だから怖くてしかたがなかった。  珠夏がそれを言うと、両親は「食べるわけないだろう」と一笑に付した。  迷信で縁を切ることもあるまい。和解の席でお会いしたが、良い青年だった。  父はそう言った。
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