猫嫌いの朱雀の娘は白虎の次期当主に執愛される

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「あなたとゆっくり話したくて、貸し切りにしたよ」  彼は優しく微笑して言った。  珠夏は思わず胸をおさえた。そうしても早まる鼓動はちっとも収まる気配はなかった。  彼に連れられて、ゆっくりと園内を散策した。  白、薄紅、ピンク、紫の芝桜がゆるやかな丘陵を絨毯のように覆っている。幾何学模様に配置され、明るい日差しを浴びて輝くようだった。 「きれいですね」  うっとりと眺めると、彼はまた優しく微笑した。 「あなたほどではないよ」 「そんな、私なんて……」 「銀朱の髪に淡い金の瞳が綺麗だ。朱雀の特徴が良く出ている」 「でも、姉ほどではないです。私は変身もできません」  姉は真朱(しんしゅ)の髪に濃い黄金の瞳をしている。朱雀の血を引くものは鳥に変化する能力を持つことがあるが、姉は鷹に変身することができる上、火を吐くことができた。 「以前はできたと聞いているけど」 「子供のころ、スズメになったことがあります」  スズメなんて貧弱なと笑われるかもしれない。彼女はうつむいた。 「かわいいね。朱雀の漢字にもスズメが使われているし、朱雀のひなという説もあるし、スズメこそが朱雀だという説もある。厄をついばむ鳥として縁起がいい」  彼がそう言ってくれて、うれしかった。だが、素直に喜ぶことなどできなかった。 「でも……」  珠夏は言い淀んだ。  風がさらりと吹いた。木々がさわさわと囁くように木の葉を揺らした。  珠夏は意を決して、説明した。
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