素人ヘアースタイリストからの卒業

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素人ヘアースタイリストからの卒業

我が家は、父が理髪店兼美容室で、私、妹、弟、三人ともに、父が髪を切っていた。 幼い頃からの、うちの習慣だ。 私は、前髪長めのボブカット? ショートワンレングスという方が近い。 妹、弟は、マッシュルームカットだ。 女の子と、男の子の差はあれど、ほぼ同じ髪型だった。 妹の、マッシュルームは、見事なサラサラで、可愛いの一言。 弟は、まさに、グワッシ‼︎ まことちゃんに、そっくりだった。 本当に、可愛らしい2人だった。 笑ってませんからね、、、あしからず、、、 中学生になっても、父が髪を切るのか、勇気を振り絞って、抗議をしようとした、ある日、、、 父が、職場の人から聞いたらしく、 『映画の撮影で役者の方々が、沖縄に滞在されていた時に、よく行く美容室があるそうで、 是非、お越し下さいって、店長さんから、お声がけ頂いたので、急だが、行ってみたいだろ?、、、 今日、予約しておいたから行ってきなさいね!」 突然、言われ、勝手に予約され、目を細々とし、不満な顔をしながら、予約をキャンセルしたいが、 そんなことは出来ない訳で、、、1人、バスに乗って出かけた、、、私の、初美容室。 入口のドアを開けると、カランコロンと、ドアチャイムが鳴り、マダムのような声のトーンで、 「お座りになって、お待ちくださいね〜」 そして、大人な雰囲気と、香水のようなシャンプーの香りに包まれた。 おのぼりさんのような、キョロキョロ感に、自分で気ずき、深呼吸して、ソファーに座って待った。 壁一面に、サイン色紙の嵐だ。 私が、読み取れたサインは、皆、時代劇の俳優さんばかりだった、、、 髪を伸ばしてみたかった夢も、どこへやら、、、 「お顔立ちが、はっきりされてますから、ショートがお似合いですよ〜」 そう言われて、顔を引き攣らせながら、精一杯の笑顔で、「お任せします」‥‥ ‥‥と、返事を返してしまった自分が、嫌で仕方がなかった。 父に、文句を言えない分、母は、聞き役に徹してくれた。 「あらっ、可愛いわよ、、、似合ってる、、、」 強弱のない言い方で、やっつけで、返したのが、みえみえだった。 「もう行かないぞ!絶対!」 そう誓った、あの日だった。 髪を切ると、気にするほど、人は見ていないものだと、昔から思っていた。 自分が気にいるか、そうでないかだけで、、、 不思議なことだが、髪を切って暫くしてから、忘れた頃に、 「あれ? 髪切った⁉︎、、、雰囲気が変わったね、、、」 そんな風に言われると、『気ずくの、遅いよっっ‥‥』と、笑ってしまう。 笑っていると、なぜ、笑っているのか分からずに、つられて一緒に笑っている人が、多かった。 父に髪を切られていた頃は、物心つくと、嫌だった、、、 「今日は、どうされますか?」 そんな言葉はない、、、 髪を伸ばしたい、伸ばして結びたい、カールして可愛いヘアスタイルに憧れた。 なぜ、うちは、髪を切るのが父なのか、不思議だった、、、 父の母、、、私の祖母は、美容師であり、書道の師範であった。 ある大きな神社の外子として生まれ、養女に出されたが、養女に行った家に、子供が授からなかった為に 養女へ行かされたのに、その後、5人も子供が生まれたそうで、、、 それを聞いた時、複雑な気持ちになった。 話が脱線したが、なんとも神がかった祖母で、不思議な人だった。 祖父は、9人兄弟の末っ子で、ご先祖様が、いわゆる、平家の方々、、、 私は、祖父の葬儀の際に、初めて9人兄弟だと知った時、他のお兄さん方も、人に視えなかったことがある。 私が、不思議さんなのか、周りが不思議さんなのかは、、、両方か、、、。 そんな祖父母の長男として生まれた父もまた、不思議な人、、、 人間と宇宙人の半々を持ち合わせたような人だと、私は思っていた。 人の髪は、神聖なもの‥‥髪=神 それを知ってか知らずか、父自身の手で、子供達の髪を切る、、、 それも厄払いをするかのように、神聖な儀式のような、、、 しかし、父は、ただ、不器用ながらに、 子供とのコミュニケーションの1つだっただけかもしれない。 ふと、思い出したことがある、、、 確かに、父が、私たちの髪を切っている間は、天使の輪が頭部のテッペンに浮き上がっていた、、、 それは、大切なお守りになっていたのだと、今は、心から感謝している。 天使の輪‥‥大事です! 孫娘達の髪を、切らずにいたのは、もしかして、聖域だと思っていたのかもしれない。 実の子供の髪を切る儀式と、孫の髪を切る儀式は別の次元なのだと思った日がある。 代わりに、私が、姪っ子達の、前髪を、可愛く切ってあげていたことはあった。 それは、儀式をする者の、交代だったのかもしれないと、今は思っている。
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