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セルロワ王国の王宮専用の狭い洗濯室は今日も暑かった。洗濯のために湯をわかすから、ここはいつも暑いのだ。真夏の現在、そこはまるで地獄のようだった。
汗をかきながら忙しく働く女たちの中、新人のリエーヌ・ルジャンもまた一生懸命に働いていた。亜麻色の髪を後ろで一つに結び、カーチフで頭を覆っている。
次の洗濯物をとりあげ、ふと手を止めた。緑の瞳に疑問が浮かぶ。妙に汚れている気がした。
「アデリーンさん、これは」
先輩のおばさん洗濯係、アデリーン・ルクティエンにそれを見せた。
「ああ、銀糸の刺繍があるから、それはこっちにしておくかね」
アデリーンは迷いなく手洗いの方にそれを仕分けた。
彼女はベテランだ。だんなさんは兵隊で、家族用の宿舎に住んでいる。
「王太子殿下のとこのシーツだね。新婚さんだから激しいのかしらね」
アデリーンの言葉に、リエーヌは顔を赤くした。
「ウブだね、あんた。16歳ならもう縁談も来る歳だろうに。王太子妃様と同じ年なんだし」
アデリーンはカラカラと笑った。
20歳の王太子、ルネスラン・オージェル・クーブレールは最近結婚したばかりだった。
優しい王太子殿下はその妃を溺愛しているともっぱらの噂だった。
リエーヌも遠めにその姿を見たことがあった。ダークブロンドの髪に水色の瞳。凛々しくて、誰もが憧れる王子そのものの姿だった。
王太子妃は美しい少女だった。同じ年とは思えない。美しい黒髪に若葉のような緑の瞳。華奢なのに胸が大きくてうらやましかった。
寄り添い合う二人はまさに理想と言って良かった。
「いいわよね、王太子様と結婚って」
ほかの洗濯係がうっとりと言う。
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