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近所にすむおばさんだった。
彼女は夫からよく暴力を受け、殴られた腕や足をよくさすっていた。見える部分は殴られないの、と彼女は語っていた。
鼓動が早くなる。
赤く汚れたシーツ、暗い顔の王太子妃。
余計な詮索をするんじゃないよ、と警告するアデリーンの顔が浮かぶ。
どうしよう。
リエーヌは悩む。
王太子妃は元男爵令嬢だったと聞いた。
それでも王太子とは身分の差があるという。
ということは、周りに相談できる人などいないのではないだろうか。
「あれ、君は」
ふいに声を掛けられ、心臓が口から飛び出そうになった。
「驚かせた? ごめん」
柔らかな声がリエーヌに謝罪する。
「ユリック様……」
驚きと喜びで、心臓が飛び跳ねた。
「やっぱりまた会えたね。ずっと君のことが気になっていたんだ」
うれしそうに彼は微笑む。
リエーヌはそれだけで幸せな気持ちになってしまう。
「なにか深刻そうな顔をしていたけど、何かあった?」
優しく言われ、リエーヌはうつむいた。
言って良いものだろうか。ただ彼女が勝手に心配しているにすぎないことを。
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