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木陰を見ると、もう王太子妃はいなくなっていた。
「話すだけ話してみて。1人では解決しないことも、2人だったらなんとかできるかもしれないよ?」
リエーヌは不安をこらえて彼を見た。
微笑が彼女を包む。
リエーヌは考える。彼は貴族だから自分と違ってたくさん本を読んでいるはずだし、いろんなことを知っていて頭も良いはずだ。
「実は」
意を決して、リエーヌは話す。
王太子の部屋のシーツが血のようなもので汚れていたこと。王太子妃が痛そうに腕をさすっていたこと。その姿が暴力を受けていた近所のご夫人に重なったこと。
「私の勘違いだとは思うんですけど、気になって……」
違うよ、と笑って否定してほしかった。君の杞憂だよ、王太子夫婦はとても仲が良いんだ。
そんな返事が来ると思っていた、のに。
彼は眉を寄せ、真剣に考え込んでしまった。
「ユリック様……」
不安になって声をかけると、彼はハッと顔をあげた。
「君は優しいんだね」
目があって、恥ずかしくなってリエーヌは顔を伏せた。
「そんなことがあったなら君が心配するのもわかるよ」
寄り添う言葉に、胸はときめく。
「一緒に調査に行こう」
予想外の発言に、息をのんだ。
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