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「私は王太子殿下とも親しくてね。彼がそんなことをするとは思えないんだ」
リエーヌは頷く。今まで王太子の悪い噂など聞いたことがなかった。
だが、暴力を受けていた女性の夫もまた、世間の評判はとても良かった。
「彼がもし本当にそんなことをしているのなら、止めなくてはならない。止めるのもまた友人であり臣下である私の役目なのだと思う」
いつもと違う真剣な彼の顔に、思わずみとれそうになる。
「でも、誰にも言ってはいけないし、知られてはならないよ。これは大変なことなんだ。今夜12時にまたここに来てくれないか。時計は君の宿舎にもあるよね?」
優しくささやかれ、リエーヌは顔が熱くなった。
「はい」
「じゃあ、また夜に。誰にも知られないようにね」
まるで秘密の逢瀬を約束したみたいだ。
リエーヌの胸は高鳴った。
夜になり、リエーヌは約束の時間に約束の場所でユリックと落ち合った。
2人はひそやかに移動する。
恋する人と一緒に居る緊張と秘密の行動による緊張で、心臓は破裂しそうに脈を打つ。
衛兵にも見つからないように気を付け、足音をたてないように王太子の寝室へと近付く。
扉の前にたどりつくと、うめき声が聞こえた。
思わずユリックを見る。
彼は指を唇の前に立てた。
2人で扉に耳をつける。
お許しください、とかぼそい声が聞こえた。
バシン、バシンと何か叩くような音がする。
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