新人洗濯係が覗いた秘め事 ~王太子の秘密を暴いた先にあるのは溺愛か死か~

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 リエーヌは思わずユリックにしがみつく。 「何かあったの?」  聞かれて、リエーヌは話す。同僚が語った噂話を。 「酷い目に遭ってらっしゃるのでは、と、気が気でなくて」  ユリックは顔をしかめた。 「お倒れになったという話は私も聞いた」  リエーヌを抱きしめたまま、ユリックは言う。 「眠らせない拷問がある、と聞いたことがある」  ビクッとリエーヌは震えた。 「拷問なんて」  ユリックの口からそんなおそろしい単語を聞くことになるとは思ってもみなかった。 「食事をとらせない虐待もある。ますます心配だな。周りは仲睦まじさの結果と思っているようだが……だとすると、なおさら王太子妃殿下の窮状に気が付く者はないということだ」 「は、早くお助けしないと」 「そうだね。まだ誰にも言ってないね」 「もちろんです」 「殿下が優しい顔の裏で妻に暴力をふるっているとなると、とんでもないスキャンダルだ。君の口からそれが漏れたとなれば、君自身がどんな目に遭うかわからない。決して誰にも話してはいけないよ」 「はい」  リエーヌは青ざめた顔でうなずいた。  ではまた、会いに来るから。  そう言って、ユリックは馬に乗って去って行った。  リエーヌは不安を押し殺してその姿を見送った。
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