新人洗濯係が覗いた秘め事 ~王太子の秘密を暴いた先にあるのは溺愛か死か~

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 心配でたまらないが、王太子妃に直接たずねるなんて、できるわけもない。  そんなときだった。 「お母さんから手紙が来たわ!」  同僚が喜んで言ってまわる姿を見た。  そうだ、手紙だ。  その思い付きに、リエーヌの胸はどきどきした。  王太子妃にこっそり手紙を渡すことはできないだろうか。  筆記用具はアデリーンが持っている。  家族に手紙を書きたい。そう言えば貸してくれるのではないだろうか。大昔と違って今は紙は安価で出回っている。  その思い付きはリエーヌにとりついたかのように、頭から離れなかった。  翌日には思い切ってアデリーンに言ってみた。 「家族に手紙を書きたいんです。紙を1枚いただけませんか。ペンとインクも貸していただけるとありがたいです」 「あんた、字が書けるの」  アデリーンは少し驚いていた。 「簡単なものでしたら」  この国では週末になると教会で文字を教えている。まだ弟妹がいなかった頃、そこに通ったことがあるのだ。  じゃあ、とアデリーンは紙と封筒をくれて、ペンとインクも貸してくれた。  夜になると誰もいない食堂に行き、月の灯りを頼りに手紙を書いた。  文字の記憶は朧で、ところどころで手はとまった。  必死に思い出して、書いた。
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