新人洗濯係が覗いた秘め事 ~王太子の秘密を暴いた先にあるのは溺愛か死か~

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 洗濯ものは毎日王宮から馬車で洗濯室に届く。  洗濯室は水車に併設されていて、王宮からは距離がある。  そこには洗濯をする部屋と乾燥室、アイロン室がある。  メインの洗濯室は水はけをよくするために床がわずかに傾斜している。  初めはそれに慣れなくて、めまいのようにぐらついて転びそうになることが何度もあった。  洗濯ははじめに手洗いとそれ以外にわける。  シルクとリネンは手洗い。綿は基本的には洗濯用の樽の中へ。  洗濯用の樽は人の腰ほどの高さがある。洗濯物を放り込んだらお湯と石鹸を入れて洗濯棒で攪拌する。洗濯棒は取っ手がついており、その先端は6本に枝分かれしている。その取っ手を回して洗うのだから、けっこうな力が必要だった。  洗ったらローラーで水を絞る。これも重労働だ。  汚れがひどいものはサボンソウからとったエキスで手洗いする。サボンソウはナデシコ科の植物で、その葉っぱを水に入れてを揉むと泡立つため昔は石鹸として使ったという。サボンソウは薬にもなるが毒にもなるので、エキスの扱いは気を付けなくてはならない。 「ねえ、知ってる? 大昔はおしっこを発酵させて洗濯に使ったんだって」  若い先輩の洗濯係に言われて、リエーヌはドン引きした。 「本当ですか?」 「私も最初に聞いたとき驚いたわ。ダニよけのためにトイレに洗濯物を干してた時代もあったんだって」 「そんな時代に生まれなくて良かったわ」 「灰汁は昔から使われてたみたいだけど」  現在でもこの国では洗濯物を白く洗い上げるために灰汁は使われている。  洗濯は重労働だが、白く洗い上がると気持ちがいい。  洗ったものは外の木にかけた紐に干して、洗濯ばさみで固定する。洗濯ばさみは二本の木の枝を加工してブリキで巻いた単純な造りだった。
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