10人が本棚に入れています
本棚に追加
曲がった瞬間に衝撃があって、洗濯物をばら撒きながら後ろに転んでしまった。
「ああ!」
短く悲鳴を上げる。せっかく洗ったのに、これでは洗い直しではないのだろうか。
「君、大丈夫?」
若い男性の柔らかな声がした。
手が差し出された。袖口には見事な刺繍と模造宝石が縫い付けられ、白いレースが覗いていた。
洗うのが大変そうな服。レースは繊細で手洗いも気を付けなくてはならない。
そんなことを思って顔を上げて、今度は心臓が悲鳴を上げた。
輝く光を背に、美しい男性が微笑んでいた。
淡い金髪は窓から差し込む日差しでキラキラと輝いていた。すっきりと整った顔が爽やかだ。暮れた空のような紫紺の瞳は優しくて、瞳に合わせたような濃紺の生地に豪華な刺繍の衣装は彼にとてもよく似合っていた。
その手をとっていいものか、迷う。
黙って彼を見つめる彼女に、彼はひざまづいた。
「立てないの? ケガをした?」
彼は心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫です」
陶然とリエーヌは答えた。
「それなら良かった。君はここで働いているのかな。どこの所属?」
「洗濯係です。ふだんは洗濯室にいて……」
そして、ハッとした。
この衣装、きっと貴族だ。
貴族にぶつかったなんて、どんなに怒られるか。
最初のコメントを投稿しよう!