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「私はユリック・エル・ローニャックという。君とはまた会うことになる気がするよ」
ユリックは優しく彼女に微笑みかけた。
リエーヌはぽかん、とその顔を見た。
エルはこの国では侯爵の名につく。つまり彼は侯爵だ。
じゃあね、と彼はリエーヌの心に微笑を残して歩き去った。
召使が洗濯物を早く拾えとぎゃんぎゃん言っているが、まったく耳に入らなかった。
翌日、リエーヌは一日中ため息をついていた。
アデリーンに心配されたが、なんでもないです、と答えてやりごした。
頭の中はユリックでいっぱいだった。
「素敵な人に出会ったの?」
「違います」
同僚にからかわれ、リエーヌは慌てて否定した。
「そうなの。ざんねーん」
「私、昨日ユリック様を見たわ。素敵だった!」
別の同僚が言う。ユリックの名に、リエーヌはどきっとした。
「氷の貴公子様よね」
「いつも冷たくって。その微笑までクールで!」
「王太子様が結婚しちゃったから、今は貴族令嬢がこぞって狙ってるんだって」
「23歳だっけ。もう結婚しててもおかしくないのに」
「冷たいのに優しくて、そのギャップがいいんだって! 誰にも心を開かず、縁談はすべて断ってるって」
「だから氷の貴公子なんじゃん。彼の心を射止めるのはどんな令嬢かしら」
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