魔法を受け継ぐ一族

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魔法を受け継ぐ一族

「アイリス、我々ノーフォーク一族は、多くの者が忘却の魔法を使うことができるんだ。私も使えるし、お前の母も、姉も、使える。だが、一族以外には、このことは秘されている。お前も知っているとおり、ローデール王国からは魔法が失われて久しい。我が一族も、魔法の力を持っているために迫害された歴史がある。しかし、先祖が王家との取引をして、ようやく侯爵領を得て、安住の地を持つことができた」 「アイリス、わたくし達は、陰ながらその力を使って、王家を支えてきたのよ」  侯爵夫人もそう言って、アイリスに微笑みかけた。 「でも……、お父様、お母様、それでは、マーガレットお姉様も魔法を使えたのですか? わたくしは今まで、魔法なんて使えたことはないわ」 「ああ、マーガレットも魔法を使える。子どもの頃に力が発現したのだ。そこから力をコントロールする方法を学んだし、魔法が一般的なノール王国に嫁いだから、問題はない。通常は、子どもの頃に力が現れることが多いのだが、アイリス、お前の場合は、発現しなかった。そこで、今後のことを考え、アイリスには厳しい教育を施した」  侯爵は眉を下げ、少し辛そうな表情のまま、話を続ける。 「利己的な理由で使えば、忘却の力は毒になる。わかるだろう? 簡単に人に害をなすこともできるようになる。そこで、アイリスを賢く、公平で、常識がある人間に育て、万一その力を得てもコントロールできるように、完璧令嬢と揶揄されるくらい、教育に力を注いで育て上げてしまった」 「侯爵、それでは、アイリスは……いえ、申し訳ありません」 「ユーグ、構わない。言いたいことがあるなら、話して差し支えないよ」  ユーグは、ソファに体を預け、どこか心細そうにしているアイリスに、労りを込めた視線を投げながら、言った。 「では、アイリスは、きちんと常識を持つ人間に育ったために、人を傷つけることができず、自分自身に無意識に忘却の魔法を使ってしまったのですか? その……人を傷つけるよりは自分を傷つけた方がよいと?」  侯爵はうなづいた。 「私はそう考えているよ。それに、本当に婚約していたこと自体を忘れたいと思ったのだろうね。婚約破棄の件は、かえって良かったかもしれない。もともと、私達はアイリスを王家に嫁がせるのは気が進まなかった。魔法の力が発現していなかったとはいえ、いつか、力を使えるようになるかもしれない。その時に、王家の人間に、アイリスの力を好きなように利用されてしまうのでは、という心配があってね。さらに言えば、アイリスの力が、王家の中に受け継がれていくのも、望ましくない」 「誤解しないでね。だからと言って、もちろん、国外追放や、侯爵令嬢の身分剥奪が、論外なのは変わらないわ」  侯爵夫人がそう言った時、これまで黙って話を聞いていたアイリスは、起き上がり、ソファにきちんと腰掛けて、口を開いた。 「お父様、お母様、その『忘却の魔法』、どうしてわたくし達は使えるのですか?」  アイリスの質問に、公爵は静かに答えた。 「私達は元々、ノール王国からやって来たのだ」
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