ノール王国国王歓迎夜会(1)

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ノール王国国王歓迎夜会(1)

 目の前で繰り広げられているこの光景は、まるで壮大な舞台の一幕のように感じられた。  アイリスは、夜会の会場中の注目を集めながら、ただ1人、豪華に飾られたバンケットホールに立ち尽くしていた。  そこだけまるで、大きな穴が開いているとでもいうように、ぽっかりと空間が空いている。  遠巻きにする人々が見つめる中心に、アイリスはいた。  背筋がすっと伸びた立ち姿。  シンプルで控えめながら、上品なラインを描く、ロイヤルブルーのドレス。  きっちりめのハーフアップに結い上げ、後ろの部分だけ自然に巻いた、青い髪。  金の耳飾りとネックレスがシャンデリアの光を受けて、キラキラと輝いていた。 「聞こえなかったか? アイリス・ノーフォーク! お前との婚約を破棄する、そう私は言ったのだ」  アイリスに指を突きつけるようにしているのは、金髪に青い瞳をした、アイリスの婚約者。  ローデール王国の第2王子、エドワードだった。 「……お前のその、冷たい、澄ました顔が嫌なんだ。いつも上品で、真面目で。お前が表情を変えることはあるのか? まるで作りものの人形のようじゃないか。私は人形を妻にする気はない」  エドワードは母である王妃譲りの、整った顔をした青年だった。  金髪碧眼の、絵に描いたような王子様。  今日着ている、白と金を基調にした礼服も、とても似合っている。  その時、アイリスは、エドワードがさりげなく胸に差しているポケットチーフがストロベリーピンクであることに気がついた。 (アイリスの色は、珍しいなあ。青い髪に、紫の瞳なんて。でも、こうして君の色を身に付けると、自分が君にとって特別な存在だと感じられて、嬉しいよ)  かつて、エドワードはそう言って、アイリスの色を礼服に使ってくれた。 「エドワード様…………」  エドワードの傍から、か細い声がした。  淡いペパーミントグリーンの、ふわふわとしたドレス。  肩と腰に付けられた、大きなリボンは、ロイヤルブルーに、金の縁取りが施されている。  くるくると巻いたストロベリーピンクの髪を自然に垂らした令嬢が、そっとエドワードの腕を掴んで、潤んだ赤い瞳で、アイリスを見つめていた。 「大丈夫だよ、リリベル」  エドワードが、ピンク髪の令嬢の腕をぽんぽん、と撫でた。  それからアイリスに向き合って、厳しい声で言った。 「アイリス。侯爵令嬢であるお前が、男爵令嬢を虐げるなんて、恥を知れ!」 「とても怖くて、体が震えてしまいました。1週間、外出することもできず……自分が何をしてしまったのかも、わからず……。人と会うことも怖くなって。だって、何かあっても、申し開きなどもできませんわ。わ、わたしは身分が低いから……っ!!」  ピンク髪の令嬢は、今や大粒の涙をこぼし始めていた。  肩を震わせ、エドワードにしがみついている。 「アイリス、お前はどこかおかしいんじゃないのか? いつも冷たいと思っていた。人を思いやる心がない。どうしてそんな残酷なことができるんだ。人として、どうかしている! そんなお前が未来の王子妃とは、人の上に立つことになるなど、私には信じられない。言語道断だ」  エドワードは手に持っていたものを、アイリスに突き出した。 「お前との婚約は破棄する。国外追放だ。侯爵家を出て、他国で平民として生きるがいい。自分が苦しめた身分の低い者の苦しみを味わうといいのだ……!!」
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