第4章 日常に帰ったら②

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第4章 日常に帰ったら②

 放課後、電車を使って、奏とあの街に行った。  そんなに遠くはない街だが、制服姿の自分たちがこの街にいることがちょっと珍しい。  丸岡ビルの場所が若干わからなかった廉に対して、「そんなことも知らねえのかよ」と奏は笑い、そのビルまで廉を連れて行ってくれた。  あの時と同じ階、六階にエスカレーターで行く。  和風カフェは午後のスイーツを求めるお客さんで混雑している。 「こいつはダメだな。三十分は待つ!」  奏はそこは諦めたようだけれど、隣にヨーロピアンな絵本カフェを見つける。 「入ってみるか? 男二人で」  奏が提案したので、廉も乗っかった。  そこは内装がいちごショートケーキを思わせる場所で、三十分で千五百円とまあまあ高い。  その代わり、カフェ内にある絵本は読み放題のようだ。 「おー。これ小さい頃に読んだ。ボロボロのピアノが主人公で、ピアノが船とか乗って旅する話だよ」  奏が教えてくれた本を、廉は読んでみた。外国の本らしい。ドイツ語なのかイタリア語なのかわからない文字が書かれている。でも、絵だけでもストーリーがわかる。  カフェで頼んだアイスティーを飲みながら、三十分、奏と何もしゃべらずに絵本を読み漁った。  カフェを出た後は、メガネ売り場に行く。 「こいつの伊達メガネの下見に来たんです。色が、なんて言ったかな」  奏が若干意地悪をして、廉にその言葉を言わせた。 「スミレ色です。その色がいい」  廉はキッパリと、メガネ売り場の案内のお姉さんに伝えた。お姉さんは職業柄、慣れているのだろう。 「度の入ってないメガネでしたら、本日、お渡しできますが」  と言いながら、メガネのフレームのサンプルを複数、持ってきてくれた。  その中の一つにピンときて、廉はそれを手に取る。とても軽い素材だ。  試着してみると、顔にもフィットする。  奏が「どれどれ」と見た途端、ぷっと吹き出した。  店のお姉さんまで若干笑いをこらえてる。 「何か変だった?」  心配になって、廉はお店の鏡を覗き込む。 「いや、イケメンじゃん!」  自分で言うのも難だが。  誰かと思ってしまった。  スミレ色というのは、若干青みがかった紫色らしい。そして、少し色全体が薄ぼんやりしている。  その色が、自分にこんなにハマるとは。  廉はメガネを早々と外してしまう。 「とてもよくお似合いになってましたよ」  店のお姉さんが、まだ笑いをこらえてるのか、若干、苦しそうにヒクヒクとしたしゃべり方で言った。 「本日、買っていかれますか?」 「いや。俺たち高校生なんで、お金がなくて、下見に来ただけで」  奏が説明していたけれど。 「買う!」  廉は奏の言葉をさえぎると、「学業御守り」の中に折りたたんで入れてあった「一万円札」を慎重に、破らないように取り出した。 「じゃあ、生徒会長はイメチェン?」  奏がおかしそうに、廉に言う。 「いや。これはあの子のためのメガネだよ」  廉は会計を済ませて、ラッピングされる伊達メガネを優しい目で見つめる。
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