2人が本棚に入れています
本棚に追加
第1章 ルミちゃん①
ゴールデンウィーク三日前、廉はようやく「結衣ちゃん」に会えた。
少し会わない間に髪が伸びている。今日はご機嫌のようで、鼻歌を歌いながらバスを待っている。廉は自然と小走りになる。
「ね、ねえ」
バス停二メートル手前で、変な調子で声をかけてしまう。「結衣ちゃん」は不審そうな目で廉を見ていた。
「このぬいぐるみ、さ」
少し慌てて、ぬいぐるみをカバンから出した。
「あー。ルミちゃん!」
「結衣ちゃん」は大切そうにぬいぐるみを受け取った。
名前までつけてたのか。このウサギのキャラの名前は本当はレディ・ミミというのを廉は知っていたのだが。
「地面に落ちてた。土に汚れてて可哀想だったから、洗濯もした。それじゃ、俺、これで」
廉は片手をあげて、かっこよくキメようとした。しかし、これでは、「結衣ちゃん」とのせっかくのつながりが途切れてしまう。
そもそも、同じバスにこれから乗るのに、「じゃ、これで」もない。
しくじった。
「結衣ちゃん」は優しい目でこちらを見て言った。
「先輩のこと見たことありますよ。入学式で挨拶されてた生徒会長さんではないですか。忍田先輩ですね。先輩はぬいぐるみがお好きなんですか?」
結衣ちゃんの目が嬉しそうに輝いてる。
廉は嘘なんてつけるはずはない。
「ひとつ上の姉貴は外遊びが好きで、ぬいぐるみなんか嫌いだった。なのに、たくさんぬいぐるみや人形をもらってた。それは全部、俺のところに行ったよ。人形に簡単なスカートとか作ったりもした。小学校五年生くらいまで遊んでたかも」
でも。言葉少なくなってしまう。
いつからか、その気持ちを封印してた。ぬいぐるみも人形も、段ボールに詰めて親戚の小さな女の子にあげてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!