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03.
「志岐と飲むのなんていつぶりだ?」
「どうでしょう、二年ぶりとかですかね」
仕事終わりで時刻は十八時を少し回ったところ。黒井さんに華を預けて部長と二人、焼き鳥屋で飲んでいた。
「……そうか、あれからもう二年も経つのか」
部長は目を細めてからしみじみそう言った。
二年前に妻が亡くなってから僕の生活は一変した。それまでは仕事の比重が七割だったのに対して減らさざるを得なくなり、今では四割かそれ以下だ。その転換期はかなりごちゃごちゃで、請け負っていたプロジェクトなんかの引継ぎでてんやわんやだった。
それを見事にこなし、成果を上げたため部長が部長になったのだろう。丁度昇格したのもその後ぐらいだし。
「あのときはどうなるかと心配したが……よかった。俺は嬉しいよ」
部長は歳こそ僕よりも上なのだが、入社時期が同じのいわゆる同期というやつだ。芯がしっかりしていて熱もあり、自分より相手という利他的な人だ。僕が急にプロジェクトを離脱することになっても文句も言わずに『まかせろ』の一言だけ。僕が負い目を感じて無理しようとすると本気で怒ってくれる。
「あのときは……本当にありがとうございました」
だから、お礼も兼ねた飲みに行くのが随分と遅くなってしまい、申し訳ない気持ちがいっぱいだった。
「今ぐらい敬語はやめてくれ。昔みたいにため口で話してほしい」
「わかった……改めて、あのときはありがとう。本当に助かった」
「いいっていいって」
心底嬉しそうな笑顔を向けてくれる。僕は本当にいい縁に恵まれたと思った。
それから注文していた焼き鳥がやっと運ばれてきた。酔いも心地よく回ってきたところで部長が急に座り直し、姿勢を正した。
「実はな、志岐に二つ話したいことがあるんだ」
そう前置きをして、一呼吸おいてから「社内で志岐の昇進の話が出ている」と言った。
「当然業務量も増えるし、上からの圧力も今の非じゃない。実際、ストレスでどうにかなっちまったやつもいるしな」
最近の若い者は、と年齢層が高めの管理職達からちらほら聞こえていた。僕の目から見れば確かにこらえ性がないのも事実だが、原因の半分以上はマネジメント不足だと思っている。実際、どうにかなってしまった人たちの割合を見れば、上司ガチャの外れ枠は一目瞭然だ。それは部長も同感らしく、僕の昇進の発端はそこにあると教えてくれた。
「会社も俺たちが入った頃と比べて大きくなっている。社長も上場を視野に入れ始めたし、その前に社内改革が必要だと考えているそうだ」
従業員は百人を超え、入社当時の三倍以上までに大きくなっていた。オフィスも手狭になってきて、昨年に移転したのとサテライトオフィスが新たにできるほど拡大していた。急成長を遂げる中、次の問題として浮き彫りになってきたことを解消するために動いている、という現状だろう。
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