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「あ、あの、まどか?」
唐突に背後から声をかけられ、わたしはビクッと驚いた。声を聞いて判別はできる。櫻子だ。でも、いつからいたのか。まさか、奏馬との会話も聞かれていたのかも。
恐る恐る振り返る。
「あ、櫻子。どうしたの?」
平然を装うが、心臓はバクバクだ。
「なんか、今誰かと話してた?」
彼女はわたしの横にやって来ると、窓の外を見た。辺りを見渡して人の姿を確認している。
「誰と話してたの?」
「え、わたし? いや別に……」
視界の隅に奏馬の姿が見える。そっぽを向いて他人のフリをしているのがムカついた。そもそもあんたは他の人には見えていないというのに。
「え、だってさ、外に向かってなんか言ってたよね? 先生がどうのこうのって」
「あー、あれか。いや、先生を見つけてさ、少し話してたのよ。もうどっか行っちゃったみたいだけど」
「ふーん、そうなんだ。まどかって他の先生と仲良かったんだ」
「まあねー」
完全なる嘘。他の先生と話したことなんて一度もない。それでもこの状況をうまく乗り越えられるのならばどんな嘘でもつく。
休み時間もあとわずか。わたしたちはお手洗いを済ませて教室へと戻る。トイレの前では奏馬がわたしのことを待っていた。
後方からついてくる。自分の教室へ入るとき、C組の三津谷くんとすれ違った。
彼は、わたしの斜め上を見ていた気がした。
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