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「うん、ちょっと、コンビニに」
「なんで?」
「ア、アイス食べたくて」
「アイスなら冷凍庫にあるでしょ」
「コンビニのじゃないとダメなの」
「なにそれ」
お母さんが引き止めようとする声を振り切って、わたしはドアを開けた。
急いで自転車を取り出し、ペダルを漕ぐ。外はもうすっかり暗くなっていて、街灯が辺りを照らしていた。
お父さんはまだ仕事から帰って来ていない。でももうすぐ帰宅するはず。お父さんに見つかると絶対に怒られる。だからそれまでに奏馬を探さないと。
わたしはまず奏馬の自宅へ向かった。と言っても彼の家はわたしの家のすぐ近く。いるかなと思って辺りを見渡してみるけれど、奏馬はどの空中にもいなかった。
次だ、とまた自転車を漕いだ。次はどこだ。学校か、いや、街中? それとも友だちの家とか? 奏馬が行きそうな場所が全然思いつかない。
わたしはペダルを漕ぎながら涙が溢れてきた。自然と足は彼が亡くなったあの現場へと向いてしまう。
そこに奏馬はいるのかもしれない。でも、もういないのかもしれない。考えるだけで悲しくて切なくて。
「……嫌だよ、奏馬、嫌だよ、なんで、なんで勝手にさ」
涙が止まらなくなってしまい、視界がぼやけてきた。嗚咽が漏れて、自分でも制御できない。奏馬のことが頭に浮かび、すぐに消えていく。行かないでよ、勝手に行かないでよ……。
近くにあった公園に入って、ベンチに腰を下ろした。夜の公園に人の気配はない。
奏馬が亡くなった通りはもうすぐ近く。わたしは両手で顔を覆って、泣き続けた。奏馬のことばかり考えていた。
「どうしたのお姉ちゃん?」
唐突に男の人の声が聞こえて、顔を上げた。四十代ぐらいの男性。片手に缶ビールを持っていて、ニヤついた笑みを浮かべていた。
「な、なんでもないです」
ヤバいと思い、すぐに立ち上がる。すぐに自転車で逃げようと思ったとき、その人の腕がわたしの肩を強く掴んだ。
「痛い」
「逃げなくてもいいだろ。君、中学生かい? いけないよ、早く家に帰らないとな。俺が家まで送っていってやろう。ほら」
強引に引き寄せられたわたしは、その人の懐に無理矢理入れられてしまった。ヤバいヤバい、頭の中ではそんな感情が溢れてくる。それと同時に、体全体が恐怖で震えた。腕に力が入らない。足も動かなくて、怖さで喉も閉まっている。声が出せない。
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