4

5/5
前へ
/36ページ
次へ
 次の瞬間、尻餅をついたままの男は、体を硬直させた。口を半開きにさせ、目を見開いて驚愕していた。 『こいつを金縛りにさせた。当分解けない。さあ、いくぞ』  奏馬の声が聞こえて、わたしは急いで自転車に乗った。  公園をあとにし、自宅までやって来たとき、初めて奏馬に声をかけた。   「バカ! なんで、もっと早く、助けに来てくれないのよ! バカ! バカ!」 『いや、まさかこんなことになると思わねーじゃん』  わたしはガレージに自転車を入れたあと、うずくまって泣いてしまった。もうこの涙がなんの涙なのかわからない。 『ごめんって』 「……勝手にいなくならないでよ。どんだけ心配したか」 『それって、俺を探しに来てくれたってこと?』 「当たり前でしょ。急にいなくなるんだから」 『わりぃって。いやさ、外に出たときにさ、ちょっと実験したくなってさ。この幽霊の状態でどこまで行けんのかなって。気になって。結構遠くまで行ってたんだよ』 「そんなの、わたしに言ってからやればよかったじゃん」 『だからわりぃって。ごめんて。悪かったよ。興味本位で、つい』 「ほんと自分勝手! なんなのほんとに。もう、ほんとに……よかった。もう、勝手にいなくならないでよ。お願いだから」  それが本音だった。なによりも、もう一度奏馬に会えたことが一番嬉しい。  わたしは立ち上がり、彼を抱きしめた。感覚はない。それでも、彼の姿が再び見えただけでもよかった。  わたしには奏馬が必要なのだ。どこへも行かないでほしい、そう思った。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加