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次の瞬間、尻餅をついたままの男は、体を硬直させた。口を半開きにさせ、目を見開いて驚愕していた。
『こいつを金縛りにさせた。当分解けない。さあ、いくぞ』
奏馬の声が聞こえて、わたしは急いで自転車に乗った。
公園をあとにし、自宅までやって来たとき、初めて奏馬に声をかけた。
「バカ! なんで、もっと早く、助けに来てくれないのよ! バカ! バカ!」
『いや、まさかこんなことになると思わねーじゃん』
わたしはガレージに自転車を入れたあと、うずくまって泣いてしまった。もうこの涙がなんの涙なのかわからない。
『ごめんって』
「……勝手にいなくならないでよ。どんだけ心配したか」
『それって、俺を探しに来てくれたってこと?』
「当たり前でしょ。急にいなくなるんだから」
『わりぃって。いやさ、外に出たときにさ、ちょっと実験したくなってさ。この幽霊の状態でどこまで行けんのかなって。気になって。結構遠くまで行ってたんだよ』
「そんなの、わたしに言ってからやればよかったじゃん」
『だからわりぃって。ごめんて。悪かったよ。興味本位で、つい』
「ほんと自分勝手! なんなのほんとに。もう、ほんとに……よかった。もう、勝手にいなくならないでよ。お願いだから」
それが本音だった。なによりも、もう一度奏馬に会えたことが一番嬉しい。
わたしは立ち上がり、彼を抱きしめた。感覚はない。それでも、彼の姿が再び見えただけでもよかった。
わたしには奏馬が必要なのだ。どこへも行かないでほしい、そう思った。
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